字幕ほにゃく犬のダラダラほにゃく日記

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『華氏119』

 東京国際映画祭で昨日、マイケル・ムーア監督の「華氏119」が上映された。チケットをいただけることになり(本当にありがとうございます!!)ウハウハ♥気分で会場へ出かけた。

 

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 ものすっごい衝撃作!タイトルはもちろん「華氏911」にひっかけたものなのだけど、シャレでも何でもない。2016年11月9日、トランプ氏が大統領戦の勝利宣言をした日なんだとか。その後のトランプの暴れっぷり、無法者っぷりは誰もが知るところ。

 

 この映画がスゴイのは、そんなトランプを叩くだけの作品ではないところ。見る人によって様々な受け止め方があると思うけれど、「トランプはヒドイ」とけなすのは問題の単なる矮小化に過ぎないことをムーア監督は指摘しているのではと私は思った。

 

 細かく書くとネタバレになってしまうので避けるけれど、問題の根っこはそれこそブッシュ政権のころにさかのぼるような気がする。そう、9.11の頃。さらにクリントン政権とオバマ政権が続いたけれど、この2人にも監督は容赦ない。特にオバマさんのあるエピソードには、心底ガッカリさせられた。こういう人だったのか…政治家って所詮、こういう者だと思わずにいられない。こういうのが重なると、Politikverdrossenheit になるのだろう。

 

 ムーア監督らしく、アポなし電撃訪問や秘密の暴露はもはやデフォルト。文春砲ならぬムーア砲が何度も炸裂し、会場でもあちこちで笑いが起きた。私も思わず声を出して笑った。しかーし。後半から笑えなくなる。ヒトラーのナチ・ドイツの映像が盛り込まれるようになると、血の気が引いてきた。ドイツの国会議事堂放火事件(1933年)が取り上げられ、いかにナチがこの火事を「利用」したかが紹介されていた。ヒトラー政権が発足する直前の選挙(1932年11月)では、ナチ党は33%の票しか獲得できなかったにもかかわらず、あのように強大な政権を築き上げた。そこには全権委任法も深くかかわってくるのだけど、そんな当時の事情についても詳しい説明があった。真のトランプ支持者は過半数に満たないのに、なぜ「やりたい放題」ができるのか。その問いの答えはナチにある、とムーア監督が指摘しているようで、背筋が寒くなった。笑えない。

 

 さらに、某州の知事もやりたい放題で深刻な影響を及ぼしていることにも、かなりの時間が割かれていた。利益優先、利権に群がるオトモダチ優遇、民意無視。カネ、カネ、カネ。敵が攻めてきているわけでもないのに危機をあおり、社会を分断させ、人権を軽視する。貧困層の悲惨な暮らしなんて見てみぬふり。ある州のある町で起きていることなのだけど、これは世界の縮図なのだろう。どこかの国を見ているかのようで、これまた背筋が寒くなった。

 

gaga.ne.jp

 

 とにかく、2時間がアッと言う間。姿勢を変えることも忘れ、ガン見していたので終わったら体中が痛くなった(苦笑)。ムーア監督渾身の作品だと思う。本当に危機感を募らせているのだろう。隣で見ていらした方も「ムーア監督の熱量、すごく高いですね」とおっしゃっていた。初めてお目にかかった方々と思わず語り合ってしまうほど。民主主義の衰退、劣化、変質。そんなことを感じた。of the people, by the people, for the people の言葉も今や空しく響く。メインストリームと呼ばれるエリートたちによる政治の腐敗と制度疲労。そしてこうした傾向は今や世界中に広がっているのではと思い、戦慄した。

 

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 職業柄、ついつい字幕を見ちゃう。字幕は石田泰子さん。映画ファンだけでなく、字幕翻訳者の間でもファンが多い。とっても素敵な方なのだけど、今回も素晴らしかった。特に「スナイダー」のダジャレが…(笑)しかーし。これは間違いなく2000枚越えだと思う。ところがストレスなく読めるので唸ってしまった。すごすぎる。監修は池上彰さん。

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